マガジンのカバー画像

現代編集論

89
編集の新しい可能性を深化、探索における思索をまとめていきます。
運営しているクリエイター

記事一覧

自然・文化・歴史を分かり易く人々に伝える技法「インタープリテーション」を学びたい

編集の可能性や、社会において求められる役割を果たすために、他領域の概念に触れてヒントをもらうようにしています。 例えば、非専門家に対して科学的なトピックを伝える「サイエンスコミュニケーション」がどのような考えで実践されているかを知ることは、技術に関連したコミュニケーションを行う上でのヒントがあります。 最近、関心を持っているのは「インタープリテーション」。インタープリテーションとは、自然や歴史・文化の魅力や価値を紹介し、地域と来訪者を結びつける活動。 自然公園や歴史遺産

内省からペースメイク、思考整理のサポートまで。「ライティングコーチ」の可能性

「ライティングコーチ」という職業があります。日本では耳馴染みがありませんが、北米では書籍の著者にライティングコーチが伴走し、執筆をサポートするそうです。 以前より、ライティングとコーチングの境界線には興味を持っているのですが、書け合わさったライティングコーチという存在からはいろいろなヒントがもらえそうだと考えています。 ライティングコーチの仕事以前、インクワイアのブログでライティングコーチについて紹介した際には、ライティングコーチの仕事内容として以下のようなことに触れてい

動画や音声の時代における「書く」の価値

プラットフォームも増え、テクノロジーの発達で動画や音声を制作するハードルが下がったこともあり、動画や音声のコンテンツニーズは上がっています。 文字のコンテンツは、動画や音声と比べて受け取る側の能動的な行動がより求められるため、人のアテンションを奪い合っていたり、可処分時間が減っていくなか、相対的に不利な状態にあります。 生成AIの進歩もあり、テキストのメディアで仕事をしてきた人は、仕事に対する不安を抱えることも多いのではないかと思います。とはいえ、生存の可能性も大いに残さ

企業発信におけるナラティブの使い所

西田亮介さんが朝日新聞の「Re:Ron」に寄稿されている記事を読みました。 新聞において、記者目線のエピソード重視、ナラティブ重視の記事が増えていて、そればかりになってしまわず、バランスを考えていったほうがいいのではと警鐘を鳴らしている内容。 これは新聞というメディアの特性や、社会において果たすべき役割を踏まえた内容ではありますが、「ナラティブ」をどう扱うかということは、コンテンツづくりにおいて考えておくべきこと。 近年、企業が社会的な存在意義である「パーパス」を持ち、

哲学、パラドックス、システムを思考する

日本で哲学コンサルティングを提供しているクロス・フィロソフィーズ株式会社代表の著者による『哲学思考』を読みました。 以前の『哲学シンキング』と比べると、より哲学をビジネスにどう活きるのかに焦点をあてた内容でした。 『哲学思考』では、非合理なことも視野に入れた上で「なぜ」を問うこと、倫理的にジレンマが生じる場面で「どうすべきか」を問うことなど、ビジネスにおいて重要度が増している事象に対して、哲学的に思考することが有用であると述べられています。 個人的には以下の内容は共感で

作りながら批判的思考を促進する「Critical Making」への関心

最近、「Critical Making」というアプローチに注目しています。このアプローチは、作るプロセス自体にも意味を見出し、実践を通じて社会的、文化的な文脈において、批判的に考察することを目的としたもの。 マット・ラットル氏が2000年代に提唱した「Critical Making」は、「ものづくりのプロセスにおいて、批判的思考を促進し、技術と社会の関係性について深い理解を促す実践」と定義されます。 複雑な問題や「やっかいな問題(wicked problems)」にどう取

企業が運営するメディアの可能性を探索する3つの問い

インクワイアでは、自社のメディア実践と、企業が運営するメディアの支援を両輪で行っています。昨今はメディアを取り巻く環境の変化も激しく、来年にはいろいろと挑戦が必要だと感じています。 背景にある課題などは共通しているものの、アプローチの仕方についてはベクトルが異なるため、自社のメディア実践とは分けて企業メディアの可能性探索についてのエントリをまとめてみます。 ここでは個人的に来年探索したいと考えている問いを備忘録的にまとめた内容を共有します。 可能性を探索するための3つの

テキストメディアの苦境を乗り越えるために:狭く、深く、質を求める

メディア運営を重ねるなかで、2023年はいろいろと変化がありました。「想いを持ったメディアを持続的なものにしたい」というのが個人のテーマでもあり、簡単に現状と来年に向けての所感をまとめておこうと思います。 今年も閉鎖するメディアがいくつか2022年3月にTechCrunch Japan、エンガジェット日本版が終了するという知らせは界隈では大きな話題となりました。 今年に入ってもいくつかのメディアの運営終了が発表されました。今月では、サイゾーが運営する「wezzy」の更新終

「アダプティブ・デザイン」についての覚書

2003年にスタンフォード大学で創刊され、社会の新しいビジョンの実現に向けて実践する人たちの雑誌『スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビュー』の日本版で掲載されていた記事の内容が参考になったのでメモ。 既存のやり方で解決できる「技術的問題」ではなく、解決するには人々の気持ちや考え方まで変える必要がある「適応課題」に挑むためのリーダーシップのことを「アダプティブ・リーダーシップ」といいます。 このアダプティブ・リーダーシップと、「デザイン思考」。2つの手法を組み合

メディアとデザインリサーチの掛け算

2023年5月27日に「SPREAD」をテーマに開催された「RESEARCH Conference 2023」の『デザイン・スルー・メディア』と題したセッションのレポートをinquire.jpに掲載しました。 メディアとリサーチの組み合わせについては以前から可能性を感じており、このセッション内で語られた考え方は共感しました。 メディアを用いることでリサーチに寄与できる部分は多々あると思います。それはアウトプットをつくるプロセスに光をあて、価値に変えるアプローチとも言えます

デザインの可能性を探究する運動体を目指して

今週はインクワイアが運営するメディアのひとつ『designing』からもお知らせが2つありました。ひとつは、オフラインのイベントを開催するというもの。初回はデザインと人類学についてです。 もうひとつは、法人パートナー制度のご案内。“デザインの可能性を探究する”というdesigningのミッションに共感し、共に歩んでくださる企業を募集しています。詳細はこちらからどうぞ。 designingは最近、深澤直人さんのインタビュー記事も掲載して様々な方に読んでいただきました。元々の

オフラインとオンラインを混ぜてイベントを編集する

GW、みなさんはいかがでした?鉄道も飛行機もコロナ前の混雑具合に戻ったようですね。 WHOもコロナの緊急事態宣言の終了を発表しており、名実共にアフターコロナへと突入していきそうです。 GW前から、少しずつオフラインのイベントや新しいスペースのオープンの知らせが届くようになってきています。 実際に足を運んでみると、オフラインだからこその情報量や偶然性などを発見する機会も多く、しばらくオフラインへの揺り戻しが発生しそうです。 場を編集することについては4年ほど前にもnot

「Plurality:プルーラリティ」、多元共生の触媒

先日開催された「Plurality Tokyo」、残念ながら参加できなかったのですが、大変ありがたいことに台湾のデジタル担当大臣オードリー・タン氏のキーノートセッションが翻訳付きでアップされました。 タン氏は、デジタル技術を用いて、民主主義に欠かせない「Plurality(複数性)」を担保する活動を進めています。 Pluralityの定番の訳語は「複数性」。プルーラリティは、シンギュラリティ(単一特異点)に対する「多元共生」を目指す動きでもあります。 これはイノベーショ

メディアと社会をつなぐ朝日新聞の「パブリックエディター」制度

朝日新聞社には、「パブリックエディター(PE)」という制度があり、認定NPO法人カタリバ代表理事の今村久美さん、東京都立大准教授の佐藤信さん、スマートニュース社フェローの藤村厚夫さんが就任したそうです。 メディアが人々や社会の声に耳を傾けず、遠ざかってしまうことがないよう、パブリックエディターが橋渡しを行う。オランダのジャーナリスト、ヨリス・ライエンダイクは「ゼロから学ぶジャーナリズム」の必要性を説いていましたが、それにも通じるものがあります。 ヨリスも設立に関わったオラ