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特定多数向けのメディアと、資産としてのコンテンツ

インクワイアでは、さまざまなメディアに関わっていますが、一貫しているのが「コミュニティメディア」とも言えるサイズだということ。これは会社を創業する前、自分がフリーランスだった頃から変わっていません。


メディアとコミュニティ

小林弘人さんは著書『新世紀メディア論』において、メディアビジネスの未来について語るなかで、コミュニティ創出の重要性について触れていました。元々、雑誌やラジオといったメディアはコミュニティとセットで存在していましたが、インターネットの浸透やSNSの普及によって、それがさらに実現しやすくなった。

一方で、草薙素子の台詞じゃないですが、ネットは広大です。2010年代に登場したインターネットのメディアは、際限なくスケールできるような幻想を抱いているケースもあったように感じられます。

大きくスケールしようとすると、自ずと発信する情報はマス寄りになり、似通ったものになっていきます。それが悪いわけではないですが、それだけだと面白くないですし、カバーされない情報が増えていってしまう。

雑誌やラジオのようなニッチだけど熱量のあるコミュニティとセットになったメディアをテクノロジーを活かしてつくりだしていく。そこに様々な可能性があると考えて、メディアづくりに取り組んできました。

さまざまなコミュニティにアプローチする

「コミュニティ」というキーワードも2010年代で頻繁に語られるようになりました。コミュニティにどう向き合うかは、社会に対する姿勢や、経済の可能性に対する探索にもつながります。

コミュニティについて語った書籍ではありませんが、クルミドコーヒーの店主である影山さんの著書『ゆっくり、いそげ』では、顔の見えない不特定多数でもなく、経済が成立しづらい特定少数でもない、特定多数を対象にした経済について触れられています。

(影山さんのお考えについては、最近soarでもインタビュー記事を掲載しているのでぜひチェックしてみてください)

コミュニティにアプローチすると考えると、文化人類学的なアプローチやコミュニティ・アーカイブ、コミュニティ・オーガナイジングなど、メディア運営からは一見遠そうなテーマも視野に入ってきます。

僕は文化人類学者のマーガレッド・ミードのこの言葉が好きで、社内でもたまに引用します。

思慮深い献身的な市民の小さなグループが世界を変えられることを決して疑ってはならない。それはまさに起こったことなのだ。

メディアは人々をエンパワーする、もしくはアドボケイトすることで、可能性を広げる媒介だと捉えており、コミュニティという「特定多数」に向けたメディアを生成していくことでボトムアップ的に社会を変えていきたいというのはずっと持ち続けている思いです。

実践共同体における課題とメディアの可能性

コミュニティメディアにおける運営ノウハウを蓄積しながら、インクワイアとしては事業を営んでおり、そのうちのひとつが実践共同体におけるメディア運営です。

現代において、様々な領域で高度に専門化が進行しているだけでなく、不確実な社会のなかでは素早い実践が重視され、実践を通じた学習が重視されるようになりました。それにより、求められる知識が高度化しているのみならず、知をまとめることよりも実践の優先順位が上がり、まとめた知がアップデートされるまでの期間も短くなっています。

実践者の話を聞き取り、共同体に共有するようにまとめ、随時更新を行っていく役割が必要なのではないか。それこそメディアが担えると良い役割なのではないか。ここ数年はそんな仮説を持ち、ナレッジマネジメントや組織学習などのテーマに触れながらメディアの可能性を探索しています。

「デザイン」という実践共同体における知の循環

「デザイン」という実践共同体における知の媒介を担いたいと考えているのが、インクワイアが運営している『designing』です。このブログはdesigningがサイトをリリースしたことをお知らせしたいと思って書き始めたのですが、前段がかなり長くなってしまいました…。

リリース時にツイートでも触れたのですが、デザイン経営だけでなく、人類学や人新世などデザインは様々な領域で語られるようになり、重要な役割を担おうとしている一方で、知の共有は十分に行われているとは言い難い状況だと認識しています。

designingは、可能性が広がっているデザインという実践共同体において、知を巡らせることで社会がポジティブな方向へと変化していく後押しをしたいと考え、それに挑戦しています。

ただ、以前のブログでも触れたとおり、メディアを持続可能にするためには、想いを強く持った上で、経済的に成立させる必要もあります。持続するための構造をキープしないといけない、などの条件もありますが、それはまた別の機会にまとめようと思います。

コミュニティ、特定多数を対象としたメディアは、自ずと読者の規模は小さくなります。そうなると、規模やリーチを求める定番のメディアビジネスのスキームで適用できるものが限られます。インクワイアでは、ここをどう突破していくかの試行錯誤を続けていますが、designingが挑戦しているのが「コンテンツの資産化」です。

コンテンツの資産化とはどういうことか、どう挑戦しようとしているかについては、designingの事業責任者である小山さんがnoteに綴っているのでこちらをぜひチェックしてみてください。


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