「あれもこれも」の二項動態を追求する経営哲学を提示する書籍『二項動態経営』
野中郁次郎さん、野間幹晴さん、川田弓子さんによる著書『二項動態経営』を読みました。本書では、「安定と変革」「短期と長期」「効率と創造性」など、いわば相反する二つの要素を、「どちらか」を選ぶ二項対立ではなく、「あれもこれも」を同時に追求する二項動態の実践が重要であることを説いています。
書籍内では、二項動態経営とはどのようなものなのかの概念、バンダイナムコ、エーザイ、ユニ・チャームなどの実践例、実践のために必要な考え方などを紹介しています。
著者のひとりである野中郁次郎さんは、知識創造理論を提唱してきた人物。野中さんがこれまで触れてきた「SECIモデル」、現象学と経営学のあいだを探究した『直観の経営』、野性のリーダーシップ、哲学的基盤としているアリストテレス哲学や実践知(フロネシス)リーダーシップなど、「動態経営」について考えるうえでの概念が本書には盛り込まれています。
この1〜2年ほど「パラドックス」にどう向き合うかというメッセージでの書籍や発信が増加していましたが、パラドックスを乗り越えた先にある状態を二項動態や多項動態として提示している本書にはさらにしっくり来る手応えがありました。
個人的に、人間の創造性や野性を発揮し、共通善の実現に向かって絶えず目の前の減少に則して変化しながら他者と共創に取り組んでいこうとする動態経営の考え方には非常に共感していて、これまでも野中さんの著書に触れてきました。過去に部分的に触れてきた内容が、ひとつの書籍としてまとまり、全体像を見せてくれているという印象です。
実践に向けてどうしていくのかについても触れられてはいますが、ハードルも高く、出てくる事例も大手企業のものがほとんど。実践しながら、学びを深めていく必要がありそうです。ただ、立ち返る土台が確認しやすくなった、という点ではありがたいですね。
個人的には、経営を人間の営為と捉えること、そこに生き方が投影されること、共通善の実現に向かうこと、文脈に応じて共創していくことなどは、自分が経営として実践していきたいこと。また、自身の探究テーマとしては、こうした経営の考え方は法人だけでなく、個人にも通底するものがあると考えているため、二項動態、多項動態の経営の哲学を個人や法人の経営に取り入れて実践するにはどうしたらいいのかを考えて行動していきたいと思います。