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伝える仕事をする人間として複雑さから逃げない

情報自体が希少だった時代は終わり、情報は飽和してしまってそれ自体に価値はなくなっています。むしろ、ノイズを減らすために受け取る情報を減らす、コントロールするための手法などが流通するようになりました。

そんな状況において、メッセージを届けるために「ストーリー」の重要さが語られる場面も増えています。ストーリーの定義は、物語や筋書きですが、情報発信やマーケティングの文脈においては、人々の「共感」を得るための手段として語られています。

例えば、これまでに起きた出来事を伝えるエピソードや、これから起こそうとしていることを伝えるビジョンなどを、人々が共感できる形式で伝えるのがストーリーだと僕は理解しています。

物語や筋書きという捉え方では歴史は古く、「英雄の旅」のように物語の構造やパターンなどは先人の蓄積があります。『デザインはストーリーテリング』という本では、こうした手法や構造を体験づくりに活かすための手法がわかりやすく紹介されています。

ストーリーは強力です。うまく活用できれば、様々な効果をもたらすことができます。ですが、発信を生業にする人間としては、ストーリーが悪用される可能性を常に念頭において置かなければなりません。

ストーリーとは、言い換えるならわかりやすく、人が共感しやすい型に当てはめて事象を紹介することとも言えます。型にはめようとしすぎれば、過度な脚色となり、本来のあるべき姿から離れたものになってしまう可能性も十分にありえます。

Simple is best.

なんて言葉がありますが、シンプルにしよう、わかりやすくしようとするあまり、削ぎ落とされてしまうものに耳を傾けることを忘れないようにしたい。

ライターの仕事はインタビューをして、その人のことを伝える記事を書きます。できるだけわかりやすく伝わるようにしなければなりませんが、実際には人の内面も非常に複雑です。人物でなくとも、なんらかの出来事も複雑であることがほとんど。単純であることは稀です。

安易に答えを出さない、型にはめない姿勢が、伝える仕事をする人間としてはとても大事。そのために、「システム思考」や「ネガティブケイパビリティ」のような考え方を大切にして、構造を理解すること、複雑なものを複雑なまま受け止めていく。

複雑で曖昧なものを受け止め、安易に答えを出したり決めつけたりせず、何かしらの文脈に当てはめたり、型に当てはめたりして、伝えたい人たちに伝わるように試行錯誤をする。「複雑」と「伝わる」の間をつなぐような翻訳作業が編集やライターの仕事だと僕は思います。

とても難易度の高いことですが、価値ある情報が社会に流通することに寄与できるよう、この視点は常に忘れずにいたいですね。


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編集者、ブロガー、編集デザインファームinquireの代表。プロジェクトや場、空間、体験、組織など編集の対象を拡張しようと取り組んでいます。NPO法人soarの副代表、IDENTITYの共同創業者です。

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