体験に介在する余白
予定と予定の合間で時間があると、どう過ごそうかと迷う。時間があるのは嬉しいことのはずなのに、迷っている自分に気づいたとき、普段どれだけ予定や時間を詰めていたのかと日々を省みる。
この日は、2件の取材が時間をあけて同じ場所であったため、1件目の取材を終えた後、一緒に仕事をしていたフォトグラファーとライターと3人でご飯を食べることにした。
普段、足を運ぶこともなく、土地勘のないエリアだったが、たまたま見つけたハンバーグ屋に行くことにした。開店時間は17時。15分ほど早く着いたので、開店までお店の前で立ち話をしながら待つ。
17時が近づくにつれ、店内に灯りがついていき、「営業中」の札がかかる。「3名です」とお伝えして、開店と同時に着席する。メニューを見るまで知らなかったが、ハンバーグはある程度火をかけられたものをテーブルのうえで焼いてから食べるというもの。
まずはそのまま3分ほど焼き、そのあと真ん中で切って1分ほど焼き、最後は一口サイズに切り分けて赤い部分がなくなるまで焼く。最後は鉄板でご飯を混ぜ、ペッパーライスにすることまでがセットだ。
出来上がった料理がそのまま出てきたほうが面倒は少ないし、すぐに食べられて、効率はいい。ただ、いくつかの手順があり、自分が介在しながら食べられる状態にしていくのは、過程も込み食事をしているという感覚になる。
食後も、フリーランスの仕事はどうか、など他愛もない話をする。ふと時計を見ても、次の予定まではまだ時間がある。長く居座るのも申し訳ないので、場所を変えることにした。
コーヒーでも飲もうか、と少しマップを調べてみても、18時になると開いているお店があまりない。不便に感じる面とあるが、これがこの街のリズムなのだと思い直す。
取材場所からハンバーグ屋に向かう途中で見かけていた喫茶店ならまだ開いているとわかり、足を運んだ。中に入ると、どうやら家族で経営しているお店のようだった。
「コーヒー、テーブルにまとめて置いてもらえたら、あとはこっちでやりますよ」「ミルク使わないから、スプーン下げてもらって大丈夫ですよ、洗い物少ないほうがいいですよね」
アットホームというか、家感のある雰囲気からか、自然とそんな会話が生まれる。店と客という立場で変に線を引かず、ゆっくりとコーヒーを飲むという体験を、場にいるみんなでつくっている感じが心地よい。
ハンバーグを食べたときも、コーヒーを飲んだときも、自分の手間は増えたけれど、むしろ体験は良いものになった。目の前の事象に介在する余白を削り過ぎて、モノやヒトとの関わりが画一的になりすぎていたのかもしれない。
コーヒーをゆっくりと飲みながら、目的のない雑談をしばらく続けながら、そんなことをぼーっと考える。悪くない時間の過ごし方だ、と思い始めたころには、次の予定の時間が迫ってきていた。