映画『I Like Movies』
「自分が好きなものはなにか」を自覚した上で、「それが好きだ」ということを他者に伝えるのは、案外難しい。
僕は映画が好きだけれど、自分よりも映画が好きな人はたくさんいると感じる。自分よりも好きの度合いが強い人たちを想起すると、「映画が好きなんです」と伝えることは少し憚られてしまう。
本当は、他者との比較でなく、自分が好きだと感じるかどうかが大切で、自分が好きだと感じるなら、それを伝えられるといいはずだ。だが、実際には「好き」にはいろんな要素が関係してくる。
まだレンタルDVDが全盛だった2003年のカナダを舞台に、映画好きで周囲とうまく付き合うことが苦手な高校生を主人公に描いた『I Like Movies』という映画は、「好き」とはなにかについて考えさせてくれる映画だった。
少し作品の内容に触れつつも、感想を紹介したい。
主人公は、映画が好きで映画を学ぶためにNYの大学に行こうと考える。自分の現状を好ましいとは思っておらず、大学に進学して映画を学べば、今の自分から変われるはずだと信じて。
裕福ではない彼は、大学に進学するための学費を稼ぐために、学校に通いながらレンタルDVD屋で働き始める。学校、家庭、職場、それぞれでの人々との関わりのなかで、変化していく。
本作品を通して、「好き」という気持ちに向き合うことの難しさが伝わってくる。かつて好きだったはずなのに、好きなものに関連した痛みを経験した後は、痛みを忘れるために好きなこと自体を否定することもある。
友人や家族などの関係においても、根底では相手を大切に思っていたとしても、関わりのなかで許せないことが生じてしまったときには、相手に強い言葉をぶつけてしまうこともある。本当は「好き」なはずなのに、相手には反対の気持ちで伝えてしまうことも珍しくない。
主人公も思うように実現したいことが実現できず、周囲との摩擦もあるなかで、落ち込んでいってしまう。そんな彼が高校の卒業式で流れる映像を観ることで、憑き物が落ちたような表情になるのが印象的だった。
「好き」という気持ちは、いろんな要素から影響を受ける。他者には違う気持ちを伝えたり、ときには自分自身を偽ることもある。だが、心に響く映画を観ると、根底にある純粋な気持ちを確認できる。
「ああ、自分が映画を好きな理由のひとつは、こういうところにもあるのだろう」と、改めて実感できた。
自分の純粋な好きという気持ちを確認できたら、その気持ちを大切にしつつ、相手の気持ちに寄り添うことで、関係は良好なものになっていく。そんなことを教えてくれる作品だった。