体験の編集と「XI(エクスペリエンス・アイデンティティ)」
最近、「XI(エクスペリエンス・アイデンティティ)」という言葉を目にすることが増えた。
この言葉は、CI(コーポレート・アイデンティティ)やVI(ビジュアル・アイデンティティ)と同様に企業のアイデンティティを表すもので、体験を意味する。
デザインエンジニアリングファーム「takram」の田川欣哉さんは、「第四次産業革命とデザインの役割」の中で、XIについてこう述べている。
体験価値時代におけるブランド作りは、VI(ビジュアルアイデンティティ)
からXI(エクスペリエンスアイデンティティ)へと進化する。そのような時代に対応するために、企業はCXO(チーフエクスペリエンスオフィサー)やデザイン組織の活用により付加価値の高い体験価値を創造し、知財制度は体験にまつわる知的財産の積極的な保護を目指す。
AIやロボティクスなどの技術が登場したことで「第四次産業革命」が始まっており、産業の遷移が起きている。面白いほどに多くの産業でシフトが置き始めている(このあたりの変化は『AMP』や『UNLEASH』で伝えている)
田川さんは産業の遷移に伴い、顧客の購買決定因子である「機能・性能・価格」は「機能・性能・価格・体験」へとシフトした、としている。「体験」が購買の決定に大きく影響する、と。
「体験」がこれまで重視されてなかったわけではないが、引き上げようとする動きが見られる。たとえば、今年ネスレに買収されたことでも話題になった「ブルーボトルコーヒー」は体験を重視しており、空間や音楽などにこだわって出店している。
▷“こだわり”と“成長”の両立に「挑戦」。体験重視で店舗展開するブルーボトルコーヒーの思想
こうした動きから読み解けるのは、一流のレストランやホテル、アパレルあどブランドではこれまで行われてきた「体験」へのこだわりが、他の業態にも必要になってきているということだろう。
ちょうど、運営しているメディア「soar」で来年やりたいことについて話をしていた際に、いくつか「体験」にまつわるアイデアが出てきた。人を癒やすための飲食や音楽、書籍など、soarから読者へと提案していきたい。
soarはこれまでにもメディアのコンセプトから記事のテキスト、イベントの会場、スタッフの応対までこだわって運営してきた。その対象を広げ、様々な「体験」を届けていきたい。
そうすることで、よりsoarのらしさというものを掴み取ってもらえるようになる。これは、先日の2周年に際して書いた来年の「ジャーナリズム」への挑戦とはまた違った角度での挑戦だ。
UX(ユーザーエクスペリエンス)という言葉、そしてその役割について知っていく中で「これは編集に近い」という考えを強めていった。
来年、inquireとしてはUXの領域においてもチャレンジをしてみたい。編集という言葉を便利に使うのであれば、「体験を編集する」といったところだろうか。
雑誌『自遊人』が新潟にオープンした宿「里山十帖」はわかりやすい事例だ。里山十帖のサイトの「ご挨拶にかえて」にはこんな言葉が並ぶ。
始めたかったのは、新たなインタラクティブ・メディアの枠組みをつくること。見る、嗅ぐ、聞く、感じる、眺める、座る、くつろぐ、食べる、飲む、寝る……。滞在中になにかひとつでもインスピレーションを感じていただければ、それはこの上ない幸せです。
メディアは新しい挑戦が求められている。「XI」という言葉に向き合うことも、挑戦すべきことの一つなんだろう。