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「パラサイト 半地下の家族」を観て

「パラサイト 半地下の家族」を観た。カンヌ国際映画祭での最高賞パルムドールに続き、ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞したと話題の映画だ。SNS等でも「面白い」という反響が多く投稿されていて気になった。

評判どおりの受け取り方はできなかったものの、色々と考えさせられる点があったので、感想を書いておこうと思う。以下、ネタバレも含むので観ていない方はここまでにしてもらえたら。

作品は、半地下の住宅に暮らす貧しいキム一家が、高台の豪邸に住む裕福なパク一家にパラサイトするというストーリーだ。

空間の切り取り方、テンポの良い場面展開、疾走感あるシナリオ。観客を飽きさせない手法が込められていた。最近の映像作品には、観客を休ませないよう、忙しないものが多いように感じる。

全体を通じて描かれていたのは、韓国社会の経済格差と、それによる裕福な一家と貧しい一家の違いだ。この作品には「悪人」は登場しない。ただ、それぞれが自分たちの立場からしか物事を見ることができず、それゆえ無意識的に相手が不快に感じる言動をとる。

ーーーこのあたりからネタバレ含むーーー

誰かを恨むわけではないけれど、徐々に自らが持たざるものであることを気付かされ、絶望していったのはソン・ガンホ演じる父ギテクだろう。パク一家と過ごす中で、その違いが埋まることはないと気づき、徐々に諦めのような、やり場のない怒りのような感情が蓄積していく様子が描かれている。

象徴的だったのは、大雨による洪水が起き、半地下の家が水没して以降だ。パク家の地下で暮らしていた計画にない人たちとのトラブル、大雨によって自宅が水没してしまい、避難せざるをえなくなる。ギテクは、避難所で息子のギウにこう語る。

「物事は計画どおりにはいかない、だから無計画であればいい」

計画を立てて貧しい状況から脱しようとしていた彼は、計画通りにいかない落胆から未来を見ることを諦めてしまう。水害の翌日もパク家に呼び出され、キム家の面々は高台の豪邸へと向かう。避難所に集められた衣服の中から、せめて着ていけるものを見つけて。

パク家の夫婦は、買い物や息子のサプライズのためにギテクを振り回す。ここで彼らは「雨が降ってよかった」と、貧困層の人たちのことが見えていない発言が出る。悪気があっての発言ではないものの、ギテクの心に暗い影を落とす。車での移動中、パク家の妻はギテクの臭いに耐えられず、車の窓を開ける。これまでも臭いはしていたかもしれないが、水害のあった次の日に背景も知らないでこの対応をされてはギテクも辛いだろう。

ギテクの怒りは終盤爆発する。地下に住んでいた住人から、自らの家族が傷つけられているというのに、パク家の主人は自分の息子の心配しかしない。ギテクが自分もそうなっていたかもしれないと姿を重ねた地下の住人に対しても、「臭い」を気にする態度をとったあと、反射的に彼を刺した。その結果、彼は「半」ではなく日の当たる場所に出られない地下の住人となった。

飽きさせない映像作品ではあるし、社会風刺の要素もある。だが、どうにも自分にはこの作品は刺さらなかった。いくつか要因はあるのだが、ひとつは洪水以降に意図的に裕福な家族の好ましくない面を見せようとする描写が増えた点だ。ケン・ローチ監督の『家族を想うとき』を観た際にも感じたことだが、経済格差を描く社会派の作品は富裕層を悪く見せようとする編集が引っかかる。社会が持つものと持たざるものとで分断されているのは、韓国だけではなく世界で起きていることだが、その助長をするような表現に見えるのだ。

また、この作品は途中でガラッと印象を変える。コメディタッチの前半と、サスペンスタッチの後半。作品をどうかカテゴライズするのかに悩む、ジャンルレスな一貫性のなさが引っかかった。たしかに意外性は高くなるが、過度に観客に刺激を与えようとする描写が後半になるにつれて増える。それが人によっては刺激になるだろうが、見方を変えると入口を別の見せ方にしておいて、観客の期待を裏切るやり方にも見える。

【追記】WIREDでポン・ジュノ監督のインタビューが掲載されていたので追加。ジャンルレスに対する考え等も語られている。

あとは、貧困の中にある家族に感情移入しづらかった点だ。キム家は、過去に事業で失敗していたり、優秀ではあるが大学に入れてはいないこと、母は元ハンマー投げの元メダリストであることなどが作中の描写でわかる。そんな彼らが貧しい状態から脱するためにやったことが寄生だったわけだが、その過程で元々そこで仕事をしていた人たちを蹴落とし、パク家を騙している。

クライム・コメディとして観たらいいのかもしれないが、リアリティのある描き方になっていてはそれも少し難しい。そうせざる得ない背景があることや葛藤への描写も少ないため、感情移入しにくい。クライム・コメディのテンションで最後までコメディならいいが、後半はサスペンスだ。途中から作品のテンションが変わってしまうことや、リアリティのある社会風刺の雰囲気もあるなかで見ていると、「ただの犯罪じゃん」という気持ちになる。

計画を諦めた父ギテクは完全に地下の住人になる。息子ギウは、「金を稼ぐ」という計画を立て、いずれ父が地下に暮らす豪邸を買ってまた家族で暮らすことを思い描いて映画は終わる。計画を立てるということは、未来を考えるということ。未来を見ているギウに希望を持てそうな終わりだと思ったが、ポン・ジュノ監督はこんな発言もしている。

「ギウの給与では、あの家を買うのに500年以上かかる」

この作品は社会の行き詰まり感を描いてはいるが、希望にはならない。数ある賞を受賞しているかもしれないが、僕は好きにはなれない。

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編集者。ソーシャルイノベーションと持続可能性の触媒を目指して、マネジメントやプロデュースなどしてます。 inquire Inc.代表、NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業など、小さな経済共同体が集まる生態系づくりを実践中。

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コメント (1)
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