経営における編集の可能性についての雑感
先週の週末は、メルカリの西丸くんが主宰するインハウスエディターコミュニティのイベントにお邪魔しました。
西丸くんは以前、インクワイアが主催するイベントにも登壇してもらったこともあり、個人的にはその続編のような気持ちでのぞみました。イベントの中で話した内容を踏まえつつ、メモのようなものを書いておこうと思います。
「インハウスエディター」という言葉に着目し始めたのは、2018年の頃。当時はどんな仕事なのかについて少しでも解像度を高められたらと、ferretさんの連載の中でこんな取材記事も書いていました。
メディア化する企業において編集の仕事に従事する人々がインハウスエディターと呼ばれるようになり、プロフィールにインハウスエディターと入れる人を見かけることも増えました。
inquireは、インハウスではありませんが、内部と外部の間にいるような存在として企業の編集活動の支援を行っていて、編集の仕事は需要が増しているように感じています。
いくつか、ニーズが高まっていると感じている領域を挙げてみます。
・事業のコンテンツ戦略
・プロダクトのUXライティング
・コーポレートブランディング(採用やインナーブランディング)
・経営者の思考の言語化、コーチング(に近いこと)
・MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)の策定
事業や組織においてコンテンツや言語化、情報整理などを通じて、後押しする仕事の需要が高まっている印象です。
企業や社会の変化を眺めていると、この他にも新たに可能性として広がっていそうな領域が見えてきます。
著名VCのベン・ホロウィッツの新著『Who You Are』は企業文化についての話でしたが、言葉や行動の積み重ねによる企業文化の重要性が語られることが増えてきています。そのなかで、インハウスエディターがカルチャーエディター的な役割も担える可能性があります。
カルチャーエディターとしての動き方を考えてみると、場も含めて編集することはインハウスエディターのスコープに自然と入ってくるはずです。目的に対して実施したほうがよいのであれば、既存の枠組みにとらわれる必要はないですから。
フィルムアート社から出版されている『これからのメディアをつくる編集デザイン』では、編集の領域を拡張しており、ワークショップの設計等についても触れられています。
編集は抽象化するといかに問いを用い、対話を生み出し、創造につなげるかでもあると考えているので、この観点からもインハウスエディターのカバー領域として場の編集が入ってくるのも自然な流れかと。そうすると、対話やファシリテーションについてのインプットも行っておけると視野が広がるはず。
『Who You Are』の中では、「行動」による企業文化の形成について強調されており、企業が最終的に「行動」として現れたものでしか企業文化は形作られないとしています。言葉をつくり、行動につなげ、習慣化する。そのために何ができるか?を考えるのもインハウスエディターの仕事になっていくはずです。
この点についてヒントになるなと感じたのが、コンピテンシーや評価制度などの育成に関わるルールにこの視点を組み込んでいくこと。オプトさんのオウンドメディアで記事の作成をお手伝いした際に、暗黙知の形式知化を行ってコンピテンシーを言語化し、コンピテンシーを会社のらしさと結びつけて表現した上で評価制度等に紐づけているという話を伺いました。
このあたりまで視野に入れて行動ができたとしたら、組織に与える影響も大きくなりますし、文化としていきたい行動を習慣化させることもより推進できそうです。
余談ですが、個人的には上記の事例における暗黙知の形式知化も編集のカバー範囲になると考えています。社内をフィールドワークしてどのような実践があるかを知り、実践者のリフレクションを支援することで形式知になっていない暗黙知を言語化する。さらには、その知をアクセス可能な状態でナレッジマネジメントツール等を使って管理できれば、より組織を強くできるはず。フィールドワークやインタビューによる形式知化、知的資産の管理などもインハウスエディターのカバー範囲にできる面白そうだなと。
『これからのメディアをつくる編集デザイン』では、編集デザインを「コラボレーション(協働)」、「異なるものを結びつける(編集)」などの要素で説明しています。こうした協働や結びつける仕事は、これからの企業においてイノベーションを生み出す上で必要になるのではとも考えています。
Buzzfeed Japan編集長の伊藤大地さんがメディアにおいてテックやビジネスを統合していく人材が必要だとツイートされていましたが、企業内においても異なる職種を統合していく、もしくは翻訳していく存在は必要です。
このあたりは、takramの田川さんが語られているイノベーションを生み出すためのBTC型人材についての話とつながってきます。ビジネスとテクノロジー、クリエイティブは連動していかなければならない一方で、協働のためには共通言語や翻訳が必要になる。
編集はもともと、複数の異なる職能の人々とコラボレーションしながらアウトプットを作り出すのが仕事。よりコラボレーションが必要になってきている中で、職種同士の橋渡しを編集が担うことも可能なのではないかと最近は考えています。
いろいろと可能性について触れてきましたが、どれもまだ可能性段階。今後、実績をつくり、再現性を生み、取り組む人を増やしていくことで編集のカバー領域として確立されていくと考えています。これらをインハウスエディターが担うとなれば、インハウスエディターの価値は企業にとって大きくなる。
ただ、挙げてきたような仕事を担うインハウスエディターが職業編集者である必要はなく、職能として編集ができれば良い可能性があります。PRパーソン、人事、マーケターなど、特定の職業の人が編集の職能を持っている。そんなインハウスエディターのあり方もあり得るのではないか、むしろそのほうが成立する可能性は高いのではないか、そんなことを考えています。それくらいフラットに考えていったほうが、より客観的に職業と職能の未来を考えられるのではないかと。
いずれにせよ、事業会社のなかで編集という仕事が大事な役割が担えるのだと立証していかなければなりません。その先に編集の市場価値が向上するはず。市場価値が向上しなければ、その仕事を選ぼうという人は増えませんし、今その仕事をしている人も別の仕事を選ぶことになっていきます。編集は社会に対して価値を生み出せる職能だと思っているので、できるなら市場価値も上げていきたい。
では、そのために何が必要なのか。必要なことは様々ありそうですが、イベントの中では以下の3つについて話しました。
1. まず突破するフィールドを決める
2. 成果を示しやすくする
3. 組織化する
2と3は特に説明もありませんが、1については何かしら決めていく必要があるなと考えています。編集はかつてデザインがたどった道のりを歩んでいますが、異なる点は価値があると証明するための最初のフィールドが定まっていないこと。
デザインはプロダクトづくりにおいて必要であり、そこの証明を行った上で価値発揮する領域を拡張しています。編集はここまでに書いてきたとおり、まだたしかに価値があると多くの会社で認められるようになる前に、アプローチするフィールドが多様化してしまっている。
そうなると、実践の分散し、蓄積されるナレッジも分散し、事業会社が「編集が必要だ」となる場合の場面も分散します。これだとなかなか編集が経営において価値があると多くの会社に認識してもらうのは難しい。まず、わかりやすく必要性が認識できるフィールドを見つけ、そこでの成果を出し、定常的にアサインする必要性があることを示して、組織化していく。
そうしていった先に編集の市場価値の向上があるのではないか、と考えています。inquireとしては、半ばインハウスエディターのような役割を外部から実現していきつつ、すでに活躍しているインハウスエディターを支えるような動きをしていけたらと考えています。
今回のイベントは、そのためになにが必要なのか?それを考える良い時間となりました。編集をどう捉えていくか?については試行錯誤を重ねてきていますが、またアップデートができそうです。
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