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編集をコンテンツとプロジェクトに分解する

会社のメンバーと「アドベントカレンダーをやろう」となったので久々にブログを書きます。

今年の10月にCIをリニューアルしました。会社の設立から変わっていなかったCIを刷新して、コーポレートサイトも新しくしました。

最近、ポッドキャストも始めたので音声コンテンツにおける話し方や音源の編集の仕方などにも取り組んでいます。年末年始、お時間ある方はよかったら聞いてください。

さて、何を書こうかと考えていたのですが、今回はインクワイアにおけるコンテンツエディターとプロジェクトエディターの2つの今回について書きたいと思います。

知識を翻訳し、行動変容を起こす

コンテンツエディターは、主にコンテンツ開発を担う職種です。これはデジタルメディアにおいて「編集者」という職種を思い浮かべるときのイメージに近いものだと思います。

社内では「技能」と「知識」の掛け合わせが重要だという話を頻繁にします。編集やライティングについて語られる際、出てくるのは「技能」についてが非常に多い。文章の書き方や取材の仕方などですね。

これらの技能についてはもちろん熟達させつつ、付加価値となるのが知識だと考えています。インクワイアはビジネスセクターにおける仕事がメインですが、高度に専門化が進んでいますし、テクノロジーによって境界線が溶けていることもあって、様々な業界の知識が求められます。

人工知能、ブロックチェーン、ロボティクス、デジタルファブリケーション、自動運転、空飛ぶクルマ、宇宙、農や食、エネルギー、クリーンテクノロジーやバイオテクノロジー、IoT、センサー、ウェアラブル、VRやARなど、カバーするドメインだけでも多岐に渡ります。

これらの先端の動きをある程度キャッチアップしつつ、それをビジネスパーソンに伝わるように媒介するのがコンテンツエディターの仕事です。最近、これは科学コミュニケーションのようなものではないかと考えています(科学コミュニケーションについて詳細に調べたわけではないので直感です)。

期待される役割(以下により自ら社会変革を起こしていく)
 ・知識翻訳(対話における双方向の知識の翻訳)
 ・場の構築と議論の収れん(コンバージェンス)
役割ではなく対話・協働の場に備わるべき機能
機能を発揮するために必要な資質能力
 ・広範な知識(自然科学のみならず人文社会科学の知識も必要)
 ・コミュニケーション能力(他者をつなぐ、共感する、行動変容を起こす)
 ・ソリューションを構想する力

科学コミュニケーターに期待される機能と資質能力

知識翻訳を担うと同時に、対話や協働のための場をつくっていく。この観点では、オランダのDe Correspondentにある職種「カンバセーションエディター」という役割にも通じるところがあるんじゃないかと。

単にドメインの知識をインプットするだけでなく、事業や組織に関するリテラシーも持って、成果につながるようにコンテンツをつくりあげる。これがコンテンツエディターの役割です。

編集の「プロセス」を捉える

では、プロジェクトエディターとはどんな役割を担う職種なのか。こちらは聞き慣れないものだと思います。

プロジェクトエディターの紹介に入る前に、コンテントとプロセスについて触れられたら。コンテントとプロセスは組織開発の文脈でよく登場する概念で、専門家のエントリから引用しながら紹介します。

グループ・ダイナミクスの専門家であるクルト・レヴィンが提唱した言葉に「プロセス」があります。

組織開発のニュアンスを誤解せず理解する上で気をつけなければならないのは、ここでいう「プロセス」とは単なる仕事の過程や手順などを指しているのではない、という点です。それよりももう少し広い意味合いで使われているのですが、その定義は、組織における「コンテント」という考え方とセットで捉えることで、その実態が見えてきます。

これらの概念はよく「氷山モデル」で説明されますが、まず「コンテント」とは、組織において水面に顔を出している部分で、実際に話されている内容や、飛び交っている情報、取り組まれている課題や業務の内容です。いわゆる"What"を指している、という説明もよくなされます。

他方で「プロセス」とは、表面には可視化されていない集団の関係性の質や、人間の内面的なものを指しています。個人がどんな感情で、どんなモチベーションで、どのような関係性のなかで、どのように影響を与え合い、どんな風土のなかで、どのようなコミュニケーションが背後で進められているのか。

組織のイノベーションは「プロセス」から生まれる

そのまま、まるっと参考にするわけではありませんが、編集に照らし合わせて、コンテントを担うのがコンテンツエディターだと捉えてみると、プロセスにも向き合うのがプロジェクトエディターだと捉えています。

コンテントとプロセスに分ける

プロジェクトから変容を生む

社会においてプロジェクトの重要性が高まり、会社も言ってしまえばプロジェクトの集合体だとも言えます。プロジェクトが変われば、フラクタルに様々なものが変わっていくはず。

プロジェクトの重要性は増していますが、複数のプロジェクトを兼務する、非同期でのコミュニケーションが主になるなど、プロジェクトへの関わり方も変化しており、プロジェクト推進の難易度は上がりやすい状況です。

社会に対して変容を生み出すためのテコになり得る「プロジェクト」を編集対象にしようというのがプロジェクトエディターです。

これは全く新しい言葉というわけではなく、紫牟田 伸子さんもプロジェクトエディターを肩書にされていますし、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』『紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本』などの著者である前田考歩さんもプロジェクトエディターについて言及されています。

プ譜というツールを使いこなし、プ譜の使われ方に応じて、カウンセラー、コーチ、オブザーバー、ファシリテーター、オーガナイザー、書記、アーキビストなどのロール(役割)を担うこの職業を、私は今便宜的に「プロジェクトエディター」と呼んでいます。

プロジェクトエディター(Project Editor)とは

個人的には、アジェンダ設計は質問項目設計やドキュメント作成に通じるし、議事録はリアルタイムドキュメンテーションであり、取材時のメモとりでもある。会議の進行とインタビュー時のファシリテーションは共通項も多いと考えていて、編集の能力を発揮する余地が多いにあると考えています。

先述の「プロセス」は、表面には可視化されていない集団の関係性の質や、人間の内面的なものを指しているものでした。そうすると、編集のプロセスに向き合うプロジェクトエディターは、具体的な作業のみならず、プロジェクトの過程や手順も含めて、プロジェクトチームの関係性の質や個人のモチベーション、感情の扱いなども視野に入れます。

ヒューマンバリューさんが紹介している「チームステアリング」というチーム運営手法には、メンバーのテンションに目を向けることが運営に組み込まれており、人間の内面や関係性の質を踏まえたチーム運営をしていくものになっています。

こうしたプロジェクトの運営ができれば、プロジェクトが前進するだけでなく、過程におけるメンバーのウェルビーイングを高めることにもつながるはずです。

知の生成とアーカイブの促進

プロジェクトチームは日々様々なことを実践し、課題を解決していきます。リフレクションし、学習したことを言語化していくことまで行うことができれば、組織としてのアセットになります。

現代においては、自律分散型の組織も増え、同時多発的に物事が進んでいます。さらに、正解がわからないからこそ、実践が重視されており、次から次へと実践が行われていきます。

そうなるとどうなるか。自走するチームがスピーディに実践を進め、成果を出した際に「どうやったのか」を他のチームや後から入ってきた人たちがキャッチアップしにくい状況が生まれます。

実践の回数は増えており、実践知が増えているはずなのに、その知のアーカイブが起こりくい状況になってきていると感じています。編集者がプロジェクトに伴走することで、リフレクションを促し、知の生成やアーカイブを担えるようになれば、イノベーションのカタリストとなるのではと。

ナレッジマネジメントの領域に近づいていくと思いますが、そうなれば編集の価値の軸も変わってくるので、新たな可能性が見えてくると考えています。ここにはコンテンツエディターとプロジェクトエディター、双方の関わりが必要だと思うので、どう実践していけるか?がこれからのチャレンジです。

コンテンツエディターとプロジェクトエディター。それぞれ、良質な知を社会に流通させ、人や組織、事業の変容を促すために大事な役割です。それぞれ難易度の高い職種ではありますが、共に挑戦する人を常に探しているので、関心を持った方はぜひご連絡ください。


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