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人は発散と収束を繰り返しながら進む

先日、書いたnoteはいろんな人がコメント付きでシェアしてくれていた。時間をかけて好きになっていく仕事、というのは多くの人に知ってもらいたい考え方なので嬉しい限りだ。

『自由からの逃走』で知られる思想家のエーリッヒ・フロムは著書『愛するということ』の中で、「愛は技術だろうか。技術だとしたら、知識と努力が必要だ」と語った。「誰かを愛するというのは単なる激しい感情ではない。それは決意であり、決断であり、約束である」とも。

「愛」について書き始めるとそれはそれで長くなるので、これ以上この話は続けないけれど、愛ですら自然発生して持続するものではなく、技術が必要であり、決断が必要であり、その状態を持続させるための行動が必要ということを共有したい。仕事においても、似たことは言える。

ただ、愛すると決断する対象は慎重に見極めなくてはならない。出会う人の誰も彼もを愛さなければならないわけではないのと同様に、出会う仕事すべてを好きになる必要もない(アガペーのような愛の考え方もあるが、ややこしくなるのでここでは言及しない)。

「キャリア・アンカー」という概念がある。マサチューセッツ工科大学ビジネススクールの組織心理学者であるエドガー・H・シャイン博士によって提唱されたキャリア理論の概念だ。これは、個人がキャリアを選択していく上で絶対に譲れない軸となる価値観や欲求、能力などを人生の錨(アンカー)として例えている。この「キャリア・アンカー」とは、つまり「自分らしく生きる」ためにキャリアにおいて譲れない「最も大切なこと」だ。

inquireでは、その人にとっての「錨」を発見する手伝いをメンタリングや1on1を通じて行っている。それによってその人の「目的(パーパス)」が決まり、その目的と組織の目的が合致するように働くことができたら、個人にとっても組織にとってもいいと考えている。

ただ、エドガー・H・シャイン博士はこうも言っている。「仕事を始めたばかりの20代の頃は、キャリアを選択する上で、何が自分にとって重要なことなのか、また自分らしさが発揮できる仕事や職場とはどんなものなのかは、あまりわからないものだ」と。

実際の仕事を経験しなければ、自分にとって譲れないキャリアの軸は何かはわからない。ほとんどの人が自らの「キャリア・アンカー」をある程度自覚できるようになるのは社会人になって5年以上経過してからだと考えられているそうだ。

そうなると、20代前半で自らの目的や判断基準を見つけ、それにそって仕事を選ぶことは容易じゃない。

だから、発散が必要だ。ピンと来る、なぜか心惹かれる程度でいい。自分の感情や直感に耳を傾けて、その仕事を実際に経験してみる。広く発散するように関心を持って、自分にとってのアンカーが何かを考える。

軸が見えてきたら、活動を収束させていく。広げることより、深めることに意識を向ける。一定以上の深さに到達しないとわからないことも多いからだ。ある程度収束すると、新たな視界が広がる。今までとは違った関心を持てるようになっていたりするし、より強く自分のアンカーを確認できたりもする。

発散と収束が一回転したら、次の回転に入る。常に社会も自分も変化しているのだから、その変化に適応するためにも、広めに探求して心惹かれるものを探し、見つけたら深めていく。もちろん、一度深めたものは残り続ける。

僕はそうやって発散と収束を繰り返しながら、少しずつ進んできた。「自分のやりたいことが見つからない」と考えている人は、考え方の参考にしてみてほしい。

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